「ねえねえ、平林さん…」
日本郵趣協会の事務局長・松尾氏が、声をかけてきた。
「NHKから協会にね、切手を番組で取り上げるので、取材に協力してほしいって言ってきてるんだ」
「へえー、おもしろそう!」
話を聞くと、NHK教育テレビで谷啓さんがナビゲーターをつとめる、ちょいとこだわった趣味紹介の人気番組
「美の壺」の、9月放映分で切手をテーマにするんだという。そこで、撮影に必要な切手をこちらで用意して
ほしいという要請。いいとも! 用意しましょう!
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松尾氏から話を聞いた直後、電話が鳴った。
「切手デザイン担当の兼松ですけど」
郵便事業株式会社・切手デザイン担当課長の兼松史晃さんだった。
「いま目の前にNHKの人がいて、『美の壺』という番組のことで打合せをしてるんだけど、ちょっと必要な切手が
あってね、そちらで用意してもらえません?」
いいとも! なんなりと用意しましょう! 少しでも多くの方に、切手に対する興味を持っていただくのが、私たち
の仕事。いくらでも言ってくださいな!
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その数日後、某番組制作会社のディレクターKさんが、カメラマンほかのスタッフと、目白の切手の博物館に
やってきた。
事前に用意を頼まれた切手は、ペニーブラック、竜文4種を筆頭に、戦前&戦後の各種記念切手多数。撮影
は11時頃から始まったのだが、それが延々夕方まで続いたものである。
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傍らで撮影を見ていると、じ~っと静止したまま切手を撮り続けている。こちらは素人であるから、つい質問し
てしまう。
「一瞬だけ撮って、静止画像を流してはダメなんですか」
「いや、それじゃダメなんですよ。時間の経過というのかなあ、静止画像を流すのと、じ~っと静止して撮り続
けた画像を流すのでは全然違うんですよ」
「ほぉ~、そうなんだあ」
なんとなく、納得される話ではある。
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さて、制作会社の皆さんは、ピンセットの扱いに慣れていないので、撮影のたび、こちらが切手を1枚1枚所
定の位置に置く。まず、編集部スタッフのT君が切手をセットすると、カメラマンさんがカメラを覗き込みながら
驚きの声を出した。
「すごいですねえ! 手で切手を並べているのに、ぴたりと画面が決まってますよ!」
そのひと言に、一堂爆笑。
彼がいわんとするところは、ピンセットで手作業しているのに、置かれた切手の水平および間隔が、見事な
ほどに決まっているというのである。染みついた技を褒められているわけだが、T君、照れ臭くもあり、誇らしく
もありと言った微妙な表情…。
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「どうですか? いい感じでしょ」
Kさんがモニターに手招きしてくれるので、覗き込むと、なるほど、うまいものである。その切手の魅力が実に
見事に捉えられている。たとえば、
見返り美人。カメラが切手を縦になめていくと、切手の上の見返り美人が
「ファッション・モデル」に見えてくるから不思議である。
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あれれ…! 撮影が進むうち、年代ものの切手が熱気で丸まってしまっている。これでは撮影ができないという
ので、全員で懸命に切手の反りを直し始めた。黒台紙に切手を挟み、切手を直接でなく黒台紙全体を丸めて
矯正する。
こんなことをするのは初めて。いやあ、切手の撮影がこんなに大変だったとは。
やや専門的な話になるが、いつも編集部が撮影に使う無反射ガラスを切手に乗せ、撮影してみたらどうなんだ
ろう?…と考え、提案してみる。ガラスを乗せれば、切手が反ることはない。
「いやあ、ダメなんですよ。カメラが無反射ガラスの梨地まで写し出してしまうんですよ」
そうですか…。再びシコシコと切手の矯正に励む。
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この日は、
第2次国宝シリーズ第8集の「東照宮陽明門」の、素晴らしい凹版の技を撮影して終わり。
もう夕暮れだが、一行はこれから某切手収集家のご自宅にお邪魔して、そのコレクターぶりを撮影という。
NHK教育テレビ・美の壺「切手」編※の放映は、
9月5日(金)夜10時から。撮影された切手が、どうテレビ画面に
登場するのか…。これは、是が非でも見なくてはなるまい。
※外部リンクです。
日本郵趣出版・平林健史
★「美の壺」で紹介される切手の特集ページは
こちらです。